少し前の3月17日(月)、
ドルチェ・アートホール Nagoyaで開催された「ジャン・フェランディス フルートリサイタル 名古屋公演」にお邪魔しました。
そのときの感想はこちらに。

今回は、エニアグラム心理学の視点から、
彼の演奏のスタイル・プログラムの組み方・活動スタイルについて、私なりに分析してみたいと思います。
ジャン・フェランディス氏とは
まずは彼のプロフィールから。
(当日配布のプログラムより引用。)
モーツァルトのフルート協奏曲KV314を演奏した際、アダージョを聞いたバーンスタインに「彼はまさにパン(牧神)である!」と言わしめるほど称賛を得たフルーティスト。
リヨン国立高等音楽院を卒業後、プラハの春国際音楽コンクールで優勝。
以後、カーネギーホールやシャンゼリゼ劇場など、各国の有名ホールでリサイタルや室内楽の公演を行う他、ソリストとしてオーケストラと共演。
多くの音楽祭にも招かれ、ジャン=フィリップ・コラール、アンリ・ドゥマルケット、イヴリー・ギトリス、ジャン=マルク・ルイサダらと共演している。
録音ではあらゆるフルートのレパートリーを取り上げ、22年にはモーツァルトのフルート四重発曲全集を発表。
世界初演となったアレクサンドル・デスプラの「ペレアスとメリザンド」等、現代の作曲家の作品を演をすることも多い。
現在、パリ・エコールノルマル音楽院とカリフォルニア州立大学フラトン校で教鞭をとる。
ヨーロッパ、日本、韓国、アメリカでは定期的にマスタークラスでの指導も行う。
使用楽器:パウエルフルート・ルネサンスモデル AllI4KR/C
彼のエニアグラムタイプ
エニアグラムのタイプは顔つき、仕草などから割り出せます。
ジャン・フェランディスさんは、タイプ4ウイング5だと思います。
エニアグラムタイプ4ウイング5の特徴
感受性豊かで、独自性を大切にする芸術家タイプ。
そこに知的好奇心や探究心(5の要素)が加わり、感情的に惹かれたものに関しては理論や思想までも深く追求します。
一人の時間を好み、内面世界はとても豊か。
人に理解されたい気持ちと、自分だけの世界にこもりたい気持ちの間で揺れ動くことも。
静かでミステリアスな雰囲気を持ちながら、心の奥には強い情熱と理想を秘めています。
私自身がタイプ4ウイング5なので、よく分かるのですが、
もともとセルフイメージはあまり高くなく、人前に出ることよりも一人で黙々と追求したいタイプなので、緊張もしやすい性格です。
自分には、他の人は皆が持っている”何か”が欠けている。
その“足りないもの”を埋めるために努力をする。
そんな固定された思考が行動の動機となるタイプです。
タイプ4ウイング5の人の演奏
その日は前から2列目の座席で聴きました。
彼は華麗な実績や経験を持ち、世界を代表する大ベテランプレーヤーであるにもかかわらず、とても緊張しているのがわかりました。
多分客席の後ろのほうからは見えないくらい、わずかでしたが、でも確実に、
彼の手が震えていたのが見えたのです。耳も赤い。
私は「おおぉーーーー!!!!!」
と思いました。
こんな田舎の小さいホールで。田舎者しかいないのに。(ドルチェさんすみません。🙏🏻)
自分のキャリアを過信せず、ちゃんと「今この瞬間」に向き合って、緊張できることがすごい。
この人は素晴らしい演奏家だと思いました。
演奏そのものに関しては、正直、完璧に安定していたとは言い難い部分もあったかもしれません。
でもその緊張が、聴き手の集中を引き出し、客席に良い緊張感を生み出していました。
そして、それでも「必ずやり遂げる」のは、やはり日ごろからの鍛錬、研究に裏打ちされた底力、テクニックあるからでしょう(このへんはタイプ5ぽい)。
タイプ4の強み・独創的なプログラム構成
誰もやらないような、オリジナルな表現はいかにもタイプ4らしかったです。
たとえばフランクの第4楽章。
最後の方で3楽章のモチーフが現れるところを「もろ3楽章風」に吹いていました。
こんな風に表現する人は聴いたことがないです。
また、プログラムの組み方にも、タイプ4らしい個性が。
・牧神の午後への前奏曲/C.ドビュッシー
・ソナタ/C.フランク
ー休憩ー
・揚げひばり/R.ヴォーン・ウィリアムズ
・ソナタ ホ短調 Op.2-1/J.-M.ルクレール
・歌劇「椿姫」によるファンタジーOp.76/G.ブリッチャルディ
よくよく見ると、不思議なプログラム構成です。
もし一般的な流れを意識するなら、たとえば次のような順番にするケースが多いのではないでしょうか。
・ソナタ ホ短調 Op.2-1/J.-M.ルクレール
・歌劇「椿姫」によるファンタジー Op.76/G.ブリッチャルディ
ー休憩ー
・揚げひばり/R.ヴォーン・ウィリアムズ
・牧神の午後への前奏曲/C.ドビュッシー
・ソナタ/C.フランク
だいたい作曲年代順、ということになるのでしょうが、
バロックから始まり、技巧的な華やかさのある曲で前半を締め、
後半に近現代作品→しっかりしたソナタで締める
という流れです。
「普通がイヤ」なタイプ4の思考もあるとは思いますが、
この曲順には意図があると思いました。
最初は「なんでこんな緊張感のあるしんどい曲を最初に?」と思ったのですが、
もしかすると、前半は手が震えてコントロールが難しいからあまり音が多くない曲を。
後半には得意な自由度の高い作品やバロック・技巧系の曲を持ってくる、という戦略があったのでは?と思いました。
このように、大御所は「自分の見せ方」をよく知っている、ということ。
そして、いわゆるリサイタルの型に必ずしもはまらなくていい、自由にプログラムを組めばいいんだよ、ということも教えていただいた気がしました。
型にとらわれず、自分のスタイルを貫けるのも、成熟した音楽家の強みだと感じます。
後半に光った本領発揮
特に、後半の《揚げひばり》は素晴らしかったです。
こういった、表現に”自由さ”を乗せられる曲は、彼の魅力がより発揮される気がします。
これは「型にはまりたくない」「自分なりの表現をしたい」という、タイプ4らしい欲求の表れかもしれません。
この演奏には、コンクールでの優勝歴も納得でした。
そしてルクレール。
「このタイミングでバロック?」と思いましたが、なるほど、柔らかさや繊細さがとても美しく、印象に残りました。
バロック作品はアンコールでも演奏されていましたが、彼のバロック演奏の完成度の高さは素晴らしかったです。
ちなみに、《椿姫》が始まる前には、客席後方に向かってウインクをしていましたね(おそらく、ドルチェ楽器のKさんに向けて?)。
完全に自分のペース(マイワールド)で演奏しているのが垣間見え、でもその感じがなんだか素敵でした。
「自分の音楽をする」ということ
全体を通して感じたのは、「どれだけ集中できるか」という”集中芸”を見せられているような感覚。
よく言えば「客席と緊張感を共有している」のですが、あまり「聴いてる人を楽しませよう」などのサービス精神は感じませんでした。(後半で余裕が出てくると少し変わってきましたが。)
自分の音楽をする、自分に集中することに集中している、そしてその過程を観客が見ている、といった感じで、決められた技を一つ一つ決めていくフィギュアスケートみたいな演奏だなと。
それはそれで、素晴らしいことに変わりはないのですが。
コンサートの序盤は緊張感が続いていましたが、タンポの水分を拭き取ったあと、何か気持ちが切り替わったようで、フランクの第4楽章からは、こちらも聴いていてすごく楽しいと感じました。
彼の良さが出ていたし、表現もオリジナルでこの人らしいと思いました。
タイプ4の人にとっては、ほかの人にはできない”自分の音楽”ができる、ということが最大の自己実現であり、何よりの喜びです。
その先に喜んでくれる人がいればなお嬉しいけれど、たとえ評価がついてこなくても、自分が納得できればそれでいい、という面もあったりします。
タイプ4ウイング5の音楽家のキャリア選択について
私自身、彼のことをあまり知らずにお伺いしたものですから、コントロールがものすごいし、最初に「牧神の午後」を選曲していたところから、昔はオケで吹いていたのかな、と思いきや、オケでのキャリアは無いようでした。
きっとオケマンとして生きる選択肢もあったと思いますが、メインのタイプが4の人は、集団行動や組織に属することが得意とは言えない場合も多いです。
それは、「自分だからできることをしたい」「唯一無二のオリジナルでいたい」という欲求が大きいからです。
それを満たせない環境(例えばオーケストラなど集団行動、他人が決めたスケジュールをこなす、自分の創造性が活かせない環境)では、フラストレーションを抱えやすいのです。
オーケストラが向かないわけではありませんが、“ずっとその環境に身を置く”のは苦しく感じることもあります。たまにならいい。でも、日常にはしたくない。
だからこそ、ソリストや室内楽、教育者としての活動が中心で、ある程度自分でスケジュールや仕事をコントロールできる環境を選択しているのはさすが。彼の気質に合った活動方法だと思います。
おわりに
タイプ4ウイング5らしいこだわりと世界観があふれていたフェランディス氏の演奏会。
音楽の表現にも、活動スタイルにも、「自分を活かす」という視点をもってキャリアを選んでいくことが、心地よい生き方につながるのかもしれません。

